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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)328号 判決 1999年6月15日

東京都墨田区墨田5丁目17番4号

原告

鐘紡株式会社

代表者代表取締役

石原聰一

訴訟代理人弁理士

宮本泰一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

田中弘満

廣田米男

桐本勲

主文

特許庁が平成8年審判第18089号事件について平成9年10月28日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成1年4月25日、考案の名称を「平面研磨装置」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願をし(平成1年実用新案登録願第49214号)、平成7年3月1日に出願公告されたが(平成7年実用新案登録出願公告第8134号)、同年5月29日に登録異議の申立てがあって、平成8年8月1日に拒絶査定を受けたので、平成8年10月23日、拒絶査定不服の審判を請求し、平成8年審判第18089号事件として審理された結果、平成9年10月28日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年11月20日にその謄本の送達を受けた。

2  本願考案の実用新案登録請求の範囲(請求項1)

ボルト挿通孔(4)を穿設した複数の固形砥石(3)を、その作用面が同一平面を形成する様に取付板(2)を介してラッピング定盤に配設してなる平面研磨装置において、前記固形砥石(3)の取付板(2)に固着する側の面に、ボルト挿通孔(4)の底部から砥石側面に連通する溝を刻設し、該溝と取付板(2)によって形成した側孔(6)を設けたことを特徴とする平面研磨装置。(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  引用例

(イ) 実願昭60-7908号(実開昭61-124370号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用刊行物」という。)には、「ボルト挿通孔を穿設した複数の固形砥石を、その作用面が同一平面を形成する様に取付板を介してラッピング定盤に配設してなる平面研磨装置において、前記固形砥石にボルト挿通孔の深部から砥石側面に連通する側孔を設けた平面研磨装置。」という技術(以下「引用技術」という。)が記載されている。(別紙図面(2)参照)

(ロ) なお、引用刊行物には、「側孔」が特に「穿孔」に限定しない旨記載されているので、引用技術においては、穿孔により形成されたものに限定されない「側孔」を設けているものである。

(3)  対比

本願考案と引用技術とを対比すると、本願考案は、固形砥石(3)の取付板(2)に固着する側の面に、ボルト挿通孔(4)の底部から砥石側面に連通する溝を刻設し、該溝と取付板によって形成した側孔(6)を設けているのに対して、引用技術は、固形砥石に、ボルト挿通孔の深部から砥石側面に連通する側孔を設けている点で相違し、その余の点で一致する。

(4)  相違点の認定判断

(イ) 引用技術にいう「深部」は、表面より下方にある部分を意味するものであり、側孔の形成される位置は下方であればあるほど好ましいという引用刊行物の記載を勘案すると、上記「深部」とは、底部でわることを排除していないものと認められるから、引用技術の「ボルト挿通孔の深部」と本願考案の「ボルト挿通孔の底部」との間には、実質的な差異はない。

そして、側孔を取付板に接する位置に近づければ近づけるほど望ましい効果を得られるという引用刊行物記載の技術的思想の下で、取付板に最も近接する側孔を形成するために、引用技術の側孔の一態様たる穿孔に代えて、穿孔により形成される側孔よりさらに下方に側孔を形成するという側孔構造を選択することは、当業者が当然に行い得ることである。

(ロ) ところで、機械部材の一部に孔を形成するに当たって、複数の部材の接合面において、一方の部材の表面に溝を形成し、溝の開放された部分を他方の部材の表面で閉鎖して該孔を形成すること、及び、部材の表面に溝を形成するに当たって、刻設により行うことは、機械の分野一般において周知の手段であるから、このような周知の手段を、引用技術の側孔構造に採用して、固形砥石に形成された側孔を、固形砥石の取付板に固着する側の面に刻設した溝と取付板により形成して、上記相違点のように構成することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。

(ハ) また、本願考案の奏する効果は、前記技術的思想の下で、引用技術に上記周知の手段を適用することによって当然に予測される程度のものであるから、本願考案は、上記相違点のような構成を具備したことによって格別の効果を奏するものであるともいえない。

(5)  むすび

よって、本願考案は、引用技術及び前記周知の手段に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(3)及び(4)(イ)の引用技術にいう「深部」とは表面より下方にある部分を意味するものであることは認め、その余は争う。

審決は、引用刊行物記載の「側孔」の認定を誤り、また、本願考案と引用技術との相違点の認定判断を誤っており、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、取り消されるべきである。

(1)  引用技術の「側孔」の認定の誤り

審決は、引用刊行物には、引用技術の「側孔」が特に「穿孔」に限定しない旨記載されているので、引用技術においては、穿孔により形成されたものに限定されない「側孔」を設けるものである旨認定している。

しかしながら、引用刊行物の記載中には、側孔を特に穿孔に限定しないとの明らかな記載は存在しない。むしろ、引用刊行物には、「研磨作用により砥石は磨滅してゆき、順次その厚みを減らしてゆくものであるので側孔6がセグメント状砥石の上部に穿孔されていると、使用中にそれが消滅し効果を失う事があるので第4図に示す如く、深部特に下方、即ち取付板に接する位置に穿孔しておく事が効果的である。」(9頁15行ないし10頁1行)と記載されていて、引用技術の「側孔」が穿孔によるものであることが明記されているのである。

したがって、引用技術の「側孔」は、穿孔により形成されたものに限定されるべきものであって、審決の上記認定は誤っている。

(2)  相違点の認定判断の誤り

(イ) 審決は、引用技術にいう「深部」は、表面より下方にある部分を意味するものであり、側孔の形成される位置は下方であればあるほど好ましいという引用刊行物の記載を勘案すると、上記「深部」とは、底部であることを排除していないものと認められるから、引用技術の「ボルト挿通孔の深部」と本願考案の「ボルト挿通孔の底部」との間には、実質的な差異はない旨認定している。

しかしながら、引用刊行物に側孔の形成される位置が下方であればあるほど好ましいと記載されているとはいえ、穿孔により形成されたものである以上、穿孔可能な深部位置を指していることは当然であるところ、引用技術の底部は少なくとも穿孔に適した場所とはいえないから、引用技術の「深部」は、底部を含まないとするのが自然である。よって、引用技術にいう「深部」は底部であることを排除していないとした審決の認定は、誤っている。

(ロ) 審決は、側孔を取付板に接する位置に近づければ近づけるほど望ましい効果を得られるという引用刊行物記載の技術的思想の下で、取付板に最も近接する側孔を形成するために、引用技術の側孔の一態様たる穿孔に代えて、穿孔により形成される側孔よりさらに下方に側孔を形成するという側孔構造を選択することは、当業者が当然に行い得ることである旨判断している。

しかしながら、側孔を取付板に接する位置に近づければ近づけるほど望ましい効果を得られるという引用技術に係る技術的思想は、「穿孔」による「側孔」の枠内の技術であって、取付板に近づけるとしても取付板を外れること、すなわち、穿孔によらない溝まで含むものと解することはできない。

(ハ) 審決は、機械部材の一部に孔を形成するに当たって、複数の部材の接合面において、一方の部材の表面に溝を形成し、溝の開放された部分を他方の部材の表面で閉鎖して該孔を形成すること、及び、部材の表面に溝を形成するに当たって、刻設により行うことは、機械の分野一般において周知の手段であるから、このような周知の手段を、引用技術の側孔構造に採用して、固形砥石に形成された側孔を、固形砥石の取付板に固着する側の面に刻設した溝と取付板により形成して、上記相違点のように構成することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである旨認定判断している。

部材の表面に溝を形成するということのみを捉えれば、刻設によるしか該溝を形成する手段はないということができるが、「孔」の形成は、穿孔が周知の手段であって、わざわざ溝に蓋をするような状態で孔を形成するということは行わないであろうし、かかることを周知の手段ということはできない。

被告は、上記周知の手段であることを立証するものとして乙第2号証ないし第4号証を提出しているが、各同号証は、何れも本願考案の平面研磨装置とは利用分野、具体的構造、作用効果を異にしており、また、孔を形成する目的も位置も著しく相違しているから、上記周知の手段であることを裏付けるものといえない。

したがって、審決の上記認定判断は、その前提を欠くことになる。

(二) 審決は、本願考案の奏する効果は、前記技術的思想の下で、引用技術に上記周知の手段を適用することによって当然に予測される程度のものであるから、本願考案は、上記相違点のような構成を具備したことによって格別の効果を奏するものであるともいえない旨判断しているが、引用刊行物には穿孔による手段しか示されていないから、判断の前提を誤っているものである。しかも、本願考案は、側孔の形成について、特に溝と取付板による構成を採用したことにより、側孔の形成を簡単にするとともに、砥石の耐用時間を延ばしてドレッシング作業(修復作業)の回数を減少させ、作業効率と装置稼動率を向上させるという作用効果を奏するものであって、引用技術では得られない効果である。

審決は、本願考案の上記格別の効果を看過したものであって、違法である。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、4は争う。審決の認定判断は、いずれも正当であって、取り消されるべき理由はない。

2  被告の主張

(1)  引用技術の「側孔」の認定の誤りについて

審決は、引用刊行物の実用新案登録請求の範囲、問題点を解決するための手段に係る記載、考案の解決しようとする問題点に係る記載、考案の作用に係る記載及び考案の効果に係る記載等を併せてとり上げ、これらの記載により引用刊行物の実用新案登録請求の範囲に係る考案の目的、構成及び効果を総合的に勘案した上で、同証に記載された技術的思想たる考案を、穿孔により形成されたものに限定されない「側孔」を設けるものであると認定したものである。

引用刊行物中には、確かに原告主張のとおりの記載があるが、引用刊行物中に側孔が穿孔によるものである旨の記載があるのは同箇所のみであり、その余の記載は、一貫して特に穿孔と限定することなく単に「側孔」とされている。

(2)  相違点の認定判断の誤りについて

(イ) 原告の主張は、いずれも引用技術にいう「側孔」が「穿孔」であることを前提とするものであって失当であり、審決の認定判断に誤りはない。

(ロ) 引用刊行物において、側孔は、砥石が研磨作用により磨滅することにより、使用中に消滅してしまうことがあるので、「第4図に示す如く、深部、特に下方、即ち取付板に接する位置に穿孔しておく事が効果的である。」(9頁19行ないし10頁1行)と記載されていることから、引用刊行物において側孔が取付板に接する場合は、側孔は底部に設けられているということができる。

(ハ) 原告は、機械部材の一部に孔を形成するに当たって、複数の部材の接合面において、一方の部材の表面に溝を形成し、溝の開放された部分を他方の部材の表面で閉鎖して該孔を形成すること、及び、部材の表面に溝を形成するに当たって、刻設により行うことは、機械の分野一般において周知の手段であるとの審決の認定を争っているので、乙第2ないし第4号証をもって周知の手段であることを立証する。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願考案の実用新案登録請求の範囲)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  本願考案の概要

甲第3号証(実用新案公報)によれば、本願考案は、平面研磨装置に係り、更に詳しくは、金属、ガラス、半導体ウェハー等の表面を平坦に均一、かつ、効率よく研磨するに適した形状の固形砥石を搭載した平面研磨装置に関するものであり(1欄12行ないし15行)、固形砥石を用いた従来の平面研磨装置の持つ欠点に鑑み、脱落砥粒、研磨屑、砥粒結合材等を含んだ廃液をボルト挿通孔から速やかに排出することにより良好な研磨作用を長時間維持し、かつ、固形砥石の有効部分を十分に活用し得る平面研磨装置を提供することを目的とし(3欄37行ないし42行)、上記目的を達成するために、実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用しているというものである。

第3  審決を取り消すべき事由について判断する。

1  引用技術の「側孔」の認定の誤りをいう原告の主張についての検討に先立って、まず、相違点の認定判断の誤りをいう原告の主張について検討することにする。

(1)  本願考案と引用技術とを対比すると、本願考案は、固形砥石(3)の取付板(2)に固着する側の面に、ボルト挿通孔(4)の底部から砥石側面に連通する溝を刻設し、該溝と取付板によって形成した側孔(6)を設けているのに対して、引用技術は、固形砥石に、ボルト挿通孔の深部から砥石側面に連通する側孔を設けている点で相違することは、当事者間に争いがない。

(2)  審決は、引用技術にいう「深部」は、表面より下方にある部分を意味するものであり、側孔の形成される位置は下方であればあるほど好ましいという引用刊行物の記載を勘案すると、上記「深部」とは、底部であることを排除していないものと認められるから、引用技術の「ボルト挿通孔の深部」と本願考案の「ボルト挿通孔の底部」との間には、実質的な差異はない旨認定し、原告はこれを争っているので検討する。

甲第4号証によれば、引用刊行物には、次の記載があることが認められる。

(イ) 「ラッピング定盤に作用面が同一平面を構成するよう取付けられた複数のセグメント状砥石と被研磨材表面とを擦過せしめて表面を研磨する装置において、上記砥石に穿設された竪孔と、該竪孔の深部から略々水平方向に延びて砥石側面に開口する少なくとも1個の側孔とよりなるドレン孔を備えたことを特徴とする平面研磨用砥石。」(実用新案登録請求の範囲第1項)

(ロ) 「上述の目的は、ラッピング定盤に作用面が同一平面を構成するよう取り付けられた複数のセグメント状砥石と非研磨剤表面とを擦過せしめて表面を研磨する装置において、上記砥石に穿設された竪孔と、該竪孔の深部から略々水平方向に延びて砥石側面に開口する少なくとも1個の側孔とよりなるドレン孔を具えたことを特徴とする平面研磨用砥石によって達成し得る。上記「深部」とは表面よりも下方にある部分を意味し、深部から水平方向に延びた側孔はセグメント状砥石表面に現われることなく、専ら砥石の内部に設けられるものである。該セグメント状砥石は研磨作用により磨耗してゆき、その厚味が減ってゆくものであるから、この側孔の位置は相対的に下方に近い程良く、上記取付板に近接する位置にある方が好ましい。」(5頁7行ないし6頁2行)

(ハ) 「本考案においては第4図に示す如くこのボルト挿通孔5に対し略90度の角度で水平方向に延びてセグメント砥石3の側面に開口する側孔6を設ける事を要点とするものである。」(7頁11行ないし14行)

(ニ) 「研磨作用により砥石は磨滅してゆき、順次その厚味を減らしてゆくものであるので側孔6がセグメント状砥石の上部に穿孔されていると、使用中にそれが消滅し効果を失う事があるので第4図に示す如く、深部、特に下方、即ち取付板に接する位置に穿孔しておく事が効果的である。」(9頁15行ないし10頁1行)

(ホ) 穿孔として図示されている側孔6の記載(別紙図面(2)参照)

上記認定の事実、特に、「上記「深部」とは表面よりも下方にある部分を意味し、深部から水平方向に延びた側孔はセグメント状砥石表面に現われることなく、専ら砥石の内部に設けられるものである。」、「この側孔の位置は相対的に下方に近い程良く、上記取付板に近接する位置にある方が好ましい。」、「第4図に示す如く、深部、特に下方、即ち取付板に接する位置に穿孔しておく事が効果的である。」との記載があること、第4図には、側孔が溝取付板の上面からやや離れた上方に設けられていることが示されていることを総合すると、引用技術において、側孔は、セグメント状砥石の表面よりも下方で、かつ、その内部に設けられており、上記セグメント状砥石の底部表面には現われていないものと認められる。

したがって、引用技術にいう「深部」がセグメント状砥石の底部であることを排除していないとする審決の認定は、誤っているものといわざるを得ない。

(3)  この点について、被告は、引用刊行物において、側孔は、砥石が研磨作用により磨滅することにより、使用中に消滅してしまうことがあるので、「第4図に示す如く、深部、特に下方、即ち取付板に接する位置に穿孔しておく事が効果的である。」と記載されていることから、引用刊行物において側孔が取付板に接する場合は、側孔は底部に設けられているということができる旨主張するが、上記「取付板に接する位置」との記載は、その他の記載をも併せ考えれば、穿孔の最下部が底部に一致するとの意味を有するものと解することは困難であって、被告の上記主張は、採用することができない。

(4)  次に、審決は、機械部材の一部に孔を形成するに当たって、複数の部材の接合面において、一方の部材の表面に溝を形成し、溝の開放された部分を他方の部材の表面で閉鎖して該孔を形成すること、及び、部材の表面に溝を形成するに当たって、刻設により行うことは、機械の分野一般において周知の手段であるとし、被告は、これを立証するために乙第2ないし第4号証を提出しているので検討するに、乙第2号証は、変速機におけるオイルポンプハウジングの油路構造に係る考案の公開実用新案公報であって、変速機におけるオイルポンプのハウジング内に形成される油路が記載されており、乙第3号証は、スプールバルブの油路構造に係る考案の公開実用新案公報であって、スプールバルブの油路が記載されており、る第4号証は、気体圧縮機に係る考案の明細書及び図面であって、気体圧縮機における油路が記載されており、また、各号証において、いずれも、一方の部材の表面に溝を形成し、その開放された部分を他方の部材の表面で閉鎖すること、部材の表面に溝を形成するに当たって刻設によって行うことが記載されていることが認められる。

しかしながら、本願考案とは技術分野を全く異にし、全体の構成はもとより、孔を形成する目的も根本的に相違しているものであるから、上記各号証をもって、本願考案のような平面研磨装置の技術分野において、部材の一部に孔を形成するに当たって、複数の部材の接合面において、一方の部材の表面に溝を形成し、溝の開放された部分を他方の部材の表面で閉鎖して該孔を形成すること、及び、部材の表面に溝を形成するに当たって、刻設により行うことが周知の手段であることを認めるに足りない。その他上記事実を認定するに足りる証拠はない。

(5)  前記(2)及び(4)の認定判断によれば、上記周知の手段を、引用技術の側孔構造に採用して、固形砥石に形成された側孔を、固形砥石の取付板に固着する側の面に刻設した溝と取付板により形成して、上記相違点のように構成することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものであるとする審決の認定判断は、その前提を欠き、理由がないことは明らかである。

(6)  更に、審決は、本願考案の奏する効果は、前記技術的思想の下で、引用技術に上記周知の手段を適用することによって当然に予測される程度のものであるから、本願考案は、上記相違点のような構成を具備したことによって格別の效果を奏するものであるともいえない旨認定判断しているので検討するに、甲第3号証によれば、本願明細書には、考案の効果として、「本考案に係る固形砥石を用いれば、ボルト挿通孔に滞留する研磨廃液を側孔により速やかに系外へ排出することが出来、更に固形砥石の有効に使用できる厚さが、側孔のない通常の固形砥石と略同程度とすることができる。従って、かかる固形砥石を適用した本考案の平面研磨装置によれば、良好な研磨作用が長時間接続することとなり、更に、従来の固形砥石に側孔を穿孔して得たものに比べ、砥石の無駄が少なく、砥石の耐用時間を延ばすことが出来、作業性が向上することとなる。又、本考案に係る側孔を形成するには、固形砥石の表面に溝を設ければよく、従来行なわれていた固形砥石に注意深く穿孔する方法に比べ、はるかに簡単に加工することができるものである。本考案装置を用いる事により、固型砥石を用いた平面研磨装置での研磨作業は著しく向上するものである。・・・従って本考案装置を使用すれば研磨作業における不良品の発生率は減少し且つドレッシング作業の回数が減る事により作業効率と装置稼働率とが共に向上するものである。」(5欄3行ないし6欄9行)との記載があることが認められ、本願明細書の記載に照らすと、上記効果は、本願考案の実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用することによって、すなわち、固形砥石(3)の取付板(2)に固着する側の面に、ボルト挿通孔(4)の底部から砥石側面に連通する溝を刻設し、該溝と取付板によって形成した側孔(6)を設けていること(本願考案と引用技術との相違点)によって得られる効果であることが認められる。

そうすると、本願考案の上記効果は、引用技術から得ることのできない効果であって、審決は、本願考案の顕著な効果を看過したものであるといわざるを得ない。

2  以上認定判断したとこちによれば、引用技術の「側孔」の認定の誤りについて検討するまでもなく、本件考案は引用技術及び周知の手段に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたとした審決の認定判断は誤っており、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

第3  そうすると、原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年6月1日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

別紙図面(1)

<省略>

別紙図(2)

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